恋の相手は強引上司
「土屋の言いたいことはわかるよ。退社はいきなりするもんじゃないからね。
ただ・・・彼女。あっ、青山主任は女性なんだけどね、彼女妊娠して結婚したんだよ」

・・・・・順番逆じゃねーか

俺が露骨に嫌な顔をするから主任は慌てて続きを話し出した。

「順序は人それぞれだから何とも言えないんだけど、彼女の旦那さんが仕事の
都合でワシントンに行くことになって・・・それで彼女もついて行くことになったってわけ」

「だからって…なんで後任は俺なんすか?」

「一番の理由は英語力かな・・・」

「え?」

「土屋って英語ペラペラだよな」

「日常会話程度なら・・・・」

「いやいや、売り場の責任者から外人のお客様が見えると
君が通訳してくれて助かってることは度々聞いているよ」

英語は好きだった。きっかけはアメリカのハードロックが好きで

いつか自分も英語でかっこよく歌ってみたいというありがちな理由だった。

だから洋楽を聴きまくり、歌詞カードのホッチキスが外れてしまうほど見ては

勉強そっちのけで歌った。そしてそれでも満足できなかった俺は

語学のためにと親に頼み込み

夏休みを利用して何度かアメリカでホームステイをした。

そのお陰でアメリカ人の友達も増え英語で会話することの楽しみを知った。

だが、まさかその英語がこんな形で役に立ちすぎるなんて思いもしなかった。

「それに仕事の面でも君の評判はよくて、自分のところにほしいっていうお偉いさん方結構
いるんだよ。そういうところを総合評価した上で決めたことなんだよ」

もし恋実に会わなければ凄くうれしかったと思う。

自分の学んだ英語が活かせるから・・

二つ返事ですぐにでも飛行機に乗っていたかもしれない。

でも今は正直行きたくない。

理由はひとつ恋実だ。

自分でもなんでここまで彼女に執着するのかわからない。

その理由も知りたかったのに・・・・叶いそうにない。
< 103 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop