恋の相手は強引上司
何着も用意されるスーツを着たり脱いだりしていると

終いにはもうどうでもよくなる。

これって言うのもないし、いいなと思うものは

それなりの値段だし・・・だんだん面倒になってきた。

それでも販売員は次々とスーツを探してくる。

「あ~~マジめんどい」

スーツのジャケットを面倒くさそうに試着し鏡の前で腰を左右にひねってみたり

襟を掴んで見たりしていると

鏡の奥でひとりの販売員が年配の客にネクタイを勧めているのが見えた

歳は俺よりうえ?

下ってことは・・・ないな。

妙な落ち着きがあって、客の方は信頼しきってる感が鏡からでも伝わってきた。


直感であの人ならこんなに何着も試着させずに

『これ』ってやつを選んでくれそうな気がする。

そう思ったら

俺はスーツを選んで戻ってきた販売員に

「ねえ・・・あのネクタイ売場で接客している女性って誰?」と聞いていた。

販売員は少し驚いた様子ながらも

「彼女は紳士小物を担当している真壁といいます」

「真壁・・・なにさん?」

「え?・・・・フルネームですか?」

「そう~フルネーム」

「真壁恋実(まかべれみ)です。漢字がまた変わってて恋が実るって書いて
恋実って言うんですよ。でもその割にー」

名前さえわかればいいと思った。

でもすごい名前付けられたもんだなー



それが恋実に対する第一印象だった。

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