君と、美味しい毎日を
01.ホットコーヒー
入学式のオリエンテーションでたまたま隣に座った奴と妙にうまが合って、俺は大学生活のほとんどをあいつと過ごしている。



「隣いいっすかね?」

「あ、どうぞ」

女子が好きそうなイケメンだなぁというのが第一印象だった。

すっと通った鼻筋に切れ長の黒い瞳。
俺より背が高そうだけどごつさはなくて、シンプルなサックスブルーのシャツが嫌味なくらい似合っている。

モテるんだろうな〜羨ましいなぁ〜
中学からラグビーばっかりで女の子とは無縁の俺とは大違いだろうな〜

「・・・あんたが思うほどはモテないと思うよ、多分」

「いやいや、謙遜とか逆にむかつく・・・ え? 何で俺の考えてることわかったの? エスパー!?」

「ぶはっ。独り言のつもりなら、もうちょい小さい声で言ってくれ」

なるほど、イケメンは爆笑してもイケメンなんだな。



久我原は近寄り難い外見に似合わず、社交的で誰とでもすぐ仲良くなれるタイプの人間だった。


ま、その社交的な顔がよそいきモードで、実際はかなり面倒くさがりで一人が好きっていうのは徐々に気がついたことだ。


本人の言った通り、久我原は俺の想像していたよりは女の子に告白されたりしない。

けどそれはモテないっていうのとは違う。

何て言うのかな?
牽制?
告白させない技術?

うん、そんな感じだ。

久我原は女の子に優しい。
ガツガツせず紳士的だし、さりげなく気を遣える。

けど、全ての女の子に平等で誰かを特別扱いして期待を持たせるようなことは絶対しない。
告白しても無駄だよって暗にアピールしてるような感じだ。

イケメンにはイケメンの苦労があることを俺は初めて知ったね。


だから、久我原に告白するのは自分にめちゃくちゃ自信のある美人か玉砕覚悟の子。


そして、それらの女の子の告白が成功したという話は聞いたことない。


誰に対してもにこやかで優しいアイツの仮面が剥がれる瞬間を一度だけ見たことがある。

知りあってすぐの頃だから、もう二年も前のことだ。



可愛い女の先輩に誘われてついつい行くと言ってしまった映画サークルの新入生歓迎コンパに久我原も巻き込んで参加した。

GWが明けたばかり。まだまだどこのサークルも盛んに勧誘活動をしていた時期だったから、その飲み会にはかなりの人数がいた。
多分、50人弱くらいかな。

靴を脱いで狭い座敷に上がろうとした瞬間、久我原の目が一点に釘付けになった。

「おい、久我原。 早くあがれよ。後ろつまってんだから」

俺がそう言っても、アイツは動かなかった。 全く聞こえてなかったんだと思う。

アイツの視線の先に目を向けると、一人の女の子がいた。
そして、彼女もまた久我原を見つめ動きを止めていた。

特別綺麗な子ではなかった。

良く言えば上品、悪く言えば地味といった感じのごく普通の子。

白いシャツにジーンズという女の子にしちゃシンプル過ぎる服装に長い髪を後ろでお団子にしていた。

ただ、彼女はとても凛としていて、彼女の周りには綺麗な空気が流れているような、そんな子だった。


「瑶・・・」

彼女の名前を口にしたとき、久我原の仮面が剥がれ落ちた。

ひどく怯えているようにも見えたし、
渇望しているようにも見えた。

無防備で、幼い子供のようだった。

































































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