君と、美味しい毎日を
俺は露店で瓶に入ったラムネを3本買って、2本を瑶に差し出した。

「え? なんで、2本?」

「1本は足首冷やす用。もう1本は飲む用」

「え〜、もったいない。足冷やした後に普通に飲むのに・・・」

「なんか、汚くない? それに、ぬるいラムネなんてまずそう」

「昴って意外と潔癖? 」

「いいから、早く冷やしなよ。ぬるくなっちゃったら、意味ないじゃん」

俺は手渡そうとしていたラムネをそのまま瑶の腫れた足首にあてた。

「冷たくてキモチイイ」

「・・・よかったね」

瑶の足首は想像以上に細くて華奢で、力をこめたら簡単に折れそうだった。

少しだけ触れた肌の感触も、薄闇に浮かびあがる細いふくらはぎも、伏せた睫毛も、ほんのり紅い唇も・・・

妙にエロく感じる。

俺は自分の中にわいた衝動を振り払うように、乾いた喉にラムネを流し込んだ。

シュワシュワと泡が弾け、口いっぱいに甘酸っぱさが広がる。


「浴衣、なんで着なかったの?」

「あぁ、昨日急に誘われたから。
どっちにしても浴衣持ってないし、着付けもできないから着れなかったと思うけど」

「レンタルとかあるんじゃない?」

「探せばあるかもね。けど、私はあんまり似合わないから別にいいかなって」

「そうかな? 似合うと・・・」

ふいに、ラムネを飲み干す瑶の白い喉が目に飛び込んできて、俺は言葉を飲み込んだ。

「なんか言った?」

「別に、何も」

瑶も浴衣似合うと思うよってさらっと言ってやれば良かったんだ。

瑶じゃなければ・・・
別の女の子になら・・
俺はいくらでも褒め言葉を見つけることができただろう。

瑶には何も言えなかった。

瑶はきっと浴衣がすごくよく似合う。

本心でそう思ってる自分に気づくのが怖くて、瑶に気づかれるのが怖くて、俺は口を噤んだ。

「帰ろ。焼きそばかなんか買って、家で食べよ」

「あ、一人で帰れるから大丈夫だよ。
ラムネありがとう」

「俺も帰る。人酔いしたみたいで、だるい」

「そっか、じゃあ帰ろっか」

俺と瑶は人混みの中を二人で歩いた。


俺達の間には微妙な距離があって、きっとカップルには見えなかったと思う。

初めて会った時には俺の方が少し見上げていたのに、いつの間にか俺の目の高さには瑶の顔が入らなくなっていた。


14の夏、茹だるように蒸し暑いその夜、
俺は瑶が女の子になっていた事に気がついた。

甘い香りと柔らかな肌を持つ女の子に。


俺達はやっぱり兄妹じゃない。
どうしたって、兄妹にはなり得なかった。

空になったラムネ瓶の碧いビー玉がカランカランと音をたてる。

その音がいつまでも耳に残った。





















































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