イジワル社長と偽恋契約
冷静な顔をして淡々と話す旭さんはそう言って会議室にいる社員達に頭を下げ、 チラリと私を確認すると目をそらして手元の資料に目を向ける。



社員達はというと旭さんの話を真剣に聞いた様子で、それぞれの表情をざっと見る限り皆旭さんを受け入れているように見受けられる。



皆どうしちゃったの…?

私が玲子さんと話してる間に一体何があったわけ?






「ところでそこの君。名前は何ていうんだ?」


呆然と立ち尽くしている私を見て、旭さんは資料に目を向けながら口を開く。


その仕草はとても素っ気なくて冷たい態度に見えた私は、舐められたくないと瞬時に思い冷静に対応する。





「三井妙と申します。白鷺宏伸社長の秘書をしておりました」


まるで玲子夫人になりきったように言う私は、旭さんをじっと睨みつけた。


社長の息子だか何だか知らないけど、こんなよくわからない人に舐められてたまるか!





「やはり君が秘書の三井か。父の言っていた通りの人だ」

「え?」


この人私の事知ってるの?

事前に社長から聞いていたってこと?


てゆうか、言っていた通りのってどういう意味よっ!


疑問ばかりが頭に並べられて首を傾げている私に、旭さんは今日初めて私の事を真っ直ぐ見つめた。





「三井。俺が社長を継いだ後も…君には継続して秘書になってもらう」

「はぁ!?」


顎が外れそうなくらい口が開き、疑問ばかりだった脳の中身は更にクエスチョンマークで埋め尽くされる。


会議室に戻ってみればこの男は何を言い始めるのか…


それにさっきまで自分の事を「私」と丁寧な口調だったのに比べ、私に話す時はすごく上からで自分を「俺」と言った。

この明らかに見下されてる感に私は一気に苛立ちを覚えた。





「…申し訳ありませんが、秘書に関しては新社長自らがちゃんと選抜して頂いた方がよろしいかと」


頑張って丁寧に話している私だが、心の中では旭さんに舌を出している。

こんな奴の秘書になんて誰がなるものか!






「それは出来ない。何故ならこれも父の遺言書に書いてあった事だ」

「ええっ!」


私の表情は一瞬で変化し、顔の穴という穴が全て開ききった。

信じられないという気持ちとまたしても疑問が生まれる。


何で社長は旭さんの秘書を私に!?


遺言書に遺すまでどうして?

それに…何の意味があるのよ…





「驚いているようだが…これは全て事実だ。なんなら遺言書を直接見せても構わないが」

「いえ…」


旭さんの顔を見れば嘘か本当かなんてわかる。


これも受け止めるしかないのか…

私からしたら、今は社長の息子が新しい社長になるという事実を受け止めるのに精一杯なんだけど…
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