イジワル社長と偽恋契約
夕食時。

亜希子さんとキッチンに立って夕食の手伝いをしている私。


旭さんは祖母を寝かしつけに2階へ行き、1階には私と亜希子さんだけになる…






「お客様なのに手伝わしちゃってごめんなさいね…」


煮物用の野菜を切っていると、味噌汁を作る亜希子さんが私に申し訳なさそうに言う。






「いえ…やらせて下さい。旭さんのご実家の味を知りたいので勉強したいんです」


私の料理を旭さんは文句を言わずに食べてくれるけれど、

お母さんの味に近づけたらもっと喜んでくれるって思うから。






「ふふふ…」


味噌汁をおたまでかき混ぜながら、手で口元を押さえてクスクス笑い出す亜希子さん。




「どうかしましたか？」

「いえね…妙さんて、宏伸さんから聞いていた通りの方だと思って」


亜希子さんの口から出た宏伸社長の名前。

私は迷ったけれど勇気を出して聞いてみた。






「体調はもう大丈夫なんでしょうか？旭さんから宏伸社長が亡くなった後、亜希子さんはが体調を崩されたって聞いたので…」


そう聞くと亜希子さんは一瞬表情を変えたが、すぐに笑顔になり続ける。




「…ええ。私元々は東京で助産婦の仕事をしていたんだけど…宏伸さんが体調を崩されてからは辞めてしまって……亡くなった後は精神的にも体力的にもきつくなってね…思い切って田舎に住むことにしたのよ」


亜希子さんは懐かしむような言い方だったが、どこか悲しそうな顔をした。





「私と宏伸さんのことはもう知ってるかしら？」

「…ええ。旭さんがうちの会社の社長になられた時に聞きました」

「そう…私と宏伸さんは高校生の時からの付き合いでね。お付き合いした時から結婚を決めていたの」
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