イジワル社長と偽恋契約
恋をする少女のような顔をする亜希子さん。

宏伸社長の事をどれだけ愛していたのか、表情を見ただけでわかった。





「でも…私と宏伸さんは育ちが違い過ぎた。私はごく一般家庭の娘で宏伸さんはお父様が会社を経営していらして、将来が決まっていたからね…当然私達の結婚は大反対。宏伸さんはお金持ちのご令嬢の方と婚約したの」


ご令嬢というのは社長の奥様の麗子さんのことか。

亜希子さんも彼女の事をご存知の感じだったのね…





「宏伸さんが結婚してからも…私達の不倫関係は続いていたわ。私は彼しか考えられなかったから、いけないとわかっていても気持ちを止められなかった…そしたら旭を妊娠したのよ」


亜希子さんはコンロの火を止めて、鍋に蓋をすると今度は手馴れた手つきで刺身を大皿に盛り始めた。






「愛してる人との子供だからどうしても産みたかった。宏伸さんも喜んでくれて産むことしたのよ…そして旭が生まれてからは本当に幸せだった。大好きな人の子供を産んで子育てする喜び。宏伸さんもね、仕事の合間をぬって旭をとてもかわいがってくれたのよ」

「そうだったんですか?」

「ええ。時間が出来るとちょこちょこ会いに来てくれて、誕生日やイベントにはどこか連れて行ってくれたりね。とってもいいお父さんだった」


宏伸社長のその姿が目に浮かぶ。

きっととても優しくていいお父さんだったに違いない。





「奥様には本当に申し訳ないことをしたわ。妻でもない私がこんなに幸せなんておかしいって毎日のように思っていた。そんなことを思って十数年経った頃…宏伸さんが突然倒れて…」


それは私も知っている。

あれは本当に突然だった…

今でも鮮明に覚えていて病院に駆け込んだ時に、社長がベットの上でたくさんの機械に繋がれていて…


不安が一気に襲ってきた。
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