イジワル社長と偽恋契約

「わかっていると思うがこれは俺の本心じゃあない…俺だって君のような女が自分の秘書になるなんてまっぴらだ。しかし亡き父の遺言には従うしかないだろう」

「…」


こいつ喧嘩売ってるでしょ？


君のような女って…

私をどう見てるっていうの！？


馬鹿にしたような口調と人を見下しているような視線を旭さんから浴びながら、私も負けじと反抗的な態度を取り挑戦的に睨みつけた。



いくら社長の遺言だからって…

やっぱり私はこんな人が次期社長だなんて認めない。

絶対に認めたくない…






「でも仕方がないだろう。これは現実を受け止めるしか他解決策はない。運良くお互いに不本意に思ってるみたいではあるが、どうせだったら仲良くしてみてもいいと思わないか」


旭さんの初めて見せた笑顔は、口元の方端を少しだけ上げただけのなんとも気に食わない笑い方だった。

また馬鹿にされたような気がした私は更に腹が立った。



そんな私を見た旭さんは嬉しそうな顔をしてこっちに近づいて来ると、意外にも私にそっと手を差し伸べて来た。


周りいる社員達が小声でざわざわする音が耳に入る中、私は挑戦状を受け取るような気持ちで旭さんの手を握った。





「どうぞよろしく三井。俺は父のように優しい男じゃない。バシバシ扱くから今から覚悟しておくように」

「よろしくお願い致します。私もあなたの周りにいそうな低俗な女ではないので覚悟して下さいね、白鷺新社長」


力がこもった固い握手。


私の発言に旭さんの眉が動きイライラしているんだと悟った私は、ざまあみろと胸で叫びながら拳にぐっと力を入れた。




私はこの白鷺ハウスを守ると亡き白鷺宏伸社長に誓いました。


社長が遺言で遺してくれたように…

あなたがお希望の事でありましたら、誰の秘書でもやってのけるつもりです。


たとえ気に入らない相手だとしても…

私は精一杯頑張ってみせます！


今ここで改めて誓います。



白鷺宏伸社長の息子旭さんを、

あなたのような立派な社長に育てあげてみせますのでどうか天国で見守っていて下さい。



私はそう心に誓った。

いや…開き直ったという方が正しいのか…？









「よし！」


数日後の朝。

私はいつもよりも気合いを入れて支度をして、メイクはナチュラルに見せつつしっかりめに。

肩下まであるブラウンの髪は緩く巻いて型崩れしないようにセット。

スーツはシワひとつない新品。



自宅のドレッサーの鏡に映る自分を見ながら熱い紅茶を啜り、白鷺旭が会社に乗り込んで来てからの事を走馬灯のように思い出していた。



あれからすぐに新社長の後任が決まり、

社内だけではなくマスコミやメディアも驚きを隠せない様子で、会社まだまだ落ち着かない。

突然現れた亡き社長の隠し子に世間は夢中になっている。