イジワル社長と偽恋契約
親父の顔を眺めていると、ふと幼い頃の時を思い出す。


俺は正真正銘親父の息子であるが、

戸籍上親父は俺の父親ではない。



若い頃俺の母親と交際して結婚を考えていたらしいが、

両親に猛反対され親父は仕方なく他の女性と結婚。


その後も母との関係は続き子供を身ごもり、俺を出産。


だから血は繋がってはいるが戸籍上は他人だし、一緒に暮らしたこともない。


でも俺は…

幼い頃から父をちゃんと親父だと理解していた。


親父はちょくちょく俺と母親が住む家に出向き、飯を一緒に食べたりイベント事には必ずプレゼントをくれた。


授業参観に来てくれたこともある。


俺が両親の事情を知ったのは中学の頃だったけれど、

特に何とも思わなかったことを覚えている。


事情があって両親は結婚していないとしても、親父はちゃんと父親の仕事はしてくれていたし…


しいて言うなら母親を不憫に思うくらいだ。







「あ、そうだ。旭…お前にちょっと紹介したい人が……」

「それより親父。お袋が親父の体調心配してたぞ?最近なんか調子が悪いみたいだって」


親父の言葉を遮るように言うと、たばこを火を消してキョトンとする。





「…相変わらず亜希子は鋭いな。俺をよく見てる」

「本当なのか?」

「いやたいしたことないよ。ただ最近疲れやすくてな…歳のせいだよ」


ハハハと悪う親父。

俺はたばこと酒を控えろと注意した。




「そんな事よりも…うちの秘書の三井の事なんだがね…」


始まった…

親父の秘書自慢話…



「もういいよ。親父の秘書の話はもう聞き飽きた耳にタコが出来る」

「そんな事言わずに一度会ってくれよ。すごくいい子だからさ」

「遠慮しとく」


親父はよく自分の秘書の話しも自慢げにしていた。


俺はいつもその行為が謎で不思議に思い、問い詰めても親父は一度会ってくれの一点張り。


優しくで気配りが出来ていつも一生懸命で…

気が強く頑固なところもあるとか。


とにかく親父曰く完璧な女性らしいが、俺は全く興味がなかった。



何故親父が秘書をそこまで溺愛しているのかわからない。

どうでもいいと思っていた俺は、あえて深く突っ込まなかった。



だけど、その日が親父と2人きりで飲んだ最後の日…

その一ヶ月後親父は急に倒れ、数週間後に亡くなった。







「本当に突然の事で…」

「まだお若いのに」
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