イジワル社長と偽恋契約

俺の目の前にベテラン風の貫禄のある女性従業員が、笑顔でそう声をかけてきた。




「あーえっと…」


思わず目をそらしてしまう。





「婚約指輪でしょうか？」

「…」


俺のリアクションを見て察したのか、店員は笑顔を崩すことなく問いかけてきた。


コホンと一度咳をして一間置いた後で、俺は「はい…」と小声でつぶやいた。





「かしこまりました」


クスッとこの店員笑う声が聞こえた気がしたけれど、

気のせいだと思うことにして、なるべく平然としていると店員の接客は続く。





「どのようなデザインに致しましょうか？」

「そうですね…」


全然わからないな。

こういうの初めてだし慣れてない…





「相手の方はどのようなイメージでしょうか？それに合わせていくつかご案内も出来ますが」


イメージ…


妙の顔を思い浮かべる。

俺の頭の中では、あいつはいつも笑っていて時々怒ってたまに恥ずかしがっている…






「…シンプルで……何にでも合わせやすくて…だけど可愛くて………そんな感じですかね」


俺の言葉に店員は笑顔になると「かしこまりました」と言って、

いくつかのデザインを俺に見せてくれた。


その中で一番妙に似合いそうな物を選んで購入。

今までで一番いい買い物をした。



妙は喜んでくれるだろうか…

あいつは何だって喜んでくれるってわかってるけど…

なんか心配だな。


俺は買った指輪の入った紙袋を持ち上げて眺めると、小さなため息をついた。







近々、俺は妙にプロポーズする。

婚約者がいた事はあるが、婚約指輪を買ったのは初めてだ。


結婚を申し込むのは正直二回目だけど…

珍しく緊張している。



俺はもう一度指輪の入った紙袋を見た。

妙がこれを受け取る所を想像しながら…