イジワル社長と偽恋契約
一先ず、私は社長室の掃除に取り掛かる事にした。


これは毎日のお決まりで社長のデスクの整理整頓はもちろん、床の掃除や窓拭き等…最低限必ず行うのがルール。


秘書たるもの、上司にはいつも清潔な状態で部屋を利用して欲しいしね。

だけどそれは以前の社長に対しての気持ちであって、今は正直微妙…



旭さんの為に掃除をやっていると思うと、動かしている手も途中で止まってしまう。

あいつが社長に就任してから本格的に仕事をし始めるのは今日が初めて。


どうも旭さんのことを好きになれない私は、これからうまくやっていけるだろうか…

初対面の時の印象が最悪過ぎてまだ頭から抜けないな…






真っ白な壁紙に飾られたお洒落で個性溢れる絵に、大きくて傷一つない黒いソファー。

それを囲むようにした特注のガラステーブル。


そして窓側には、先代から使っているアンティーク調の赤みがかったブラウン色のデスク。


とても立派な社長室なのに、私はこれからイライラした気持ちで毎日過ごさないといけないのか…

考えただけで最悪だ。





ガチャ…


すると社長室の奥のドアが開き、びっくりして後ろを振り返ると中から旭さんが出てきて私は更に驚いた。






「居たんですか!?」


奥の個室はいわゆる寝室になっていて、シングルのベットが置いてあり休憩出来るスペースになっている。


今まであまり使われることはなかったが、社長がどうしても仮眠したい時に利用する部屋。

そこから旭さんが出てきたということは…






「もしかして泊まったんですか?」


ワイシャツのネクタイと第二ボタンまで外している状態で、旭さんは眠そうに目をこすると革製のソファーに腰を下ろした。

寝起きなのか、旭さんの後頭部の髪の毛は少し寝癖がついている。





「まあな…」

「ちゃんと家にお帰りになってから寝て下さい」

「遅くまで仕事してたから帰るのが面倒になった」


そう言って首の後ろに手を回すと、旭さんはコキコキと肩を鳴らす。


寝起きで枯れている声を出す旭さんに新鮮さを覚え少しだけドキリとした自分の胸に、私は大きく首を横に振りスイッチを入れ替える。





「改めまして…これから白鷺ハウス株式会社代表取締役社長秘書を務めさせていただきます、三井妙と申します。どうぞよろしくお願いいたします」


完璧な口調と無駄のないお辞儀を見せた私は、どこか得意げにふんと鼻を鳴らした。

こうなったら私の仕事をこなしてこいつにギャフンと言わせるしかない!


私の実力見てなさいよ!!
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