イジワル社長と偽恋契約
私のこの言葉を翻訳すると …

「犬猿の仲ですがとりあえず仕事は真面目にしましょう」となる。


これはプライベートではなくあくまでも仕事だ。

もうここまで来たら割り切るしかない…






「とにかく秘書である私の仕事を奪うような発言は止めてください。社長が部下とベタベタするのがお嫌いだということはよくわかりましたが、私の仕事はちゃんとやらせていただきたいです」

「例えば?」


半ば諦めモードに入る旭さんは、ため息混じりに息を吐いた。

私は自分の仕事を奪われてはたまらないと
、内心かなり必死になっていた。





「私にスケジュールを管理されるのがお気に召さないのであれば、事前に社長に予定をお伝えするのでそちらで調整して下さい。逆に私がそれを管理致します」

「なるほどね」


目は合わせてくれなかったが、旭さんは何度か頷いた後さっきよりは表情が緩んでいる。


新社長の彼の性格を掴むのはまだまだ難しい…


血が繋がっている実の親子なのに宏伸社長とは全く違う。

社長は自分でスケジュールを立てたいなんてタイプではなかったし全て私に任せてくれた。


私が組んだ予定を嫌がったりなんて事もなく、キャンセルなんて事もほどんどなかった。

そんな人の秘書を何年もやっていたのだ。


正反対と言っていいほどの新社長を、これからどう扱っていこうか…

まだ全然先は見えないし真っ暗なまま…





「…そこはお前の意見に賛成してやろう。ただし俺のスケジュールに口を出したりするのは許さないからな」

「…わかりました」


上から目線と刺があるような口調に、顔をひきつらせながら返事をした私。


今までの人生、男性にちやほやされて来た訳では無いが無碍に扱われたこともない私が、こんなふうな対応を受けたのは初めてだ。


これは想像でしかないけれど、今までこの人に泣かされた女性はたくさんいるに違いないと…

勝手な想像まで膨らむ。






「それとここからは質問なんですが…」

「何だ?」


私はずっと聞きたいと思っていたことを旭さんに聞いてみることにした。

彼はソファーの肘掛けに肘をつくと、やっと私を目を見て何を聞かれるとかというような顔を見せた。





「これから社長のお世話をしていく上で、社長の好みや要望を聞いておきたいのですが…」

「好み?」

「はい。例えばお飲み物は何がお好きかとか、コーヒーや紅茶の砂糖の量や味等です」


これは私にとっては結構重要な事で、押さえておきたいポイントでもある。


社長の好みの味を知っていないと、お茶くみの時に失敗する可能性があるからだ。
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