イジワル社長と偽恋契約
本当はこんな奴の好みなんて興味はないが、今後の為には聞いておかないといけないから仕方が無い。





「さあな。何が好きだと思う?」

「はい?」


からかうような顔をする旭さんは、足を組み直すと私を試すような目で見てくる。


私は社長の言っている意味がまだ分からなかったが、とりあえず冷静を保って平然として見せた。





「しばらく時間をやるから俺の好みを当ててみろ」

「…どうやってですか?」

「俺をひたすら観察すればいいだろ?そしたらどんな人間か何が好きか何が嫌いなのか…自然と答えを出せる」

「…」


挑戦的な目…

私なんかに自分の事を見極められやしないくらい思ってるんだ。


私はその挑発を一発で飲むことにして、すぐに頷いた。





「わかりました。しばらく観察させて頂いた上で社長の事を知って行きたいと思います」

「なら3日猶予をやる。せいぜい頑張る事だな」


旭さんはそう言ってソファーから立ちあがると、社長のデスクに座り私をまた挑戦的な目で見つめた。


宏伸社長が生前使っていた椅子に彼が座ると私は心底腹が立った。

軽々しく社長の椅子に座らないで欲しい…






「そうだ。どうせなら賭けをしないか?」

「賭け?」


指を絡ませてデスクに肘をつく旭さんは、思いついたように言った。



「賭け」と聞いて思い出すのは宏伸社長。

彼はギャンブルを一切しなかっただったのだが、よく私と遊びでなんて事無い賭け事をしたのを思い出した。



旭さんの口から賭けという言葉が出た時…

宏伸社長とシンクするところがあり私はどこか戸惑っていた。


顔や性格は似ていないのに、ふと言葉にする事やたまに見せるいたずらっぽい笑顔は宏伸社長にとてもよく似ている。

やはり2人は親子なんだ…





「そうだな…そこの棚からグラスを1つ取ってくれ」


社長室の一角にある給湯スペースの横の棚を指さした。


そこには来客用の高級グラスや頂き物のアルコールが置かれている。


私は不思議に思いながら言われた通り棚からブランド物のグラスを出すと、旭さんの座っているデスクに置いた。






「俺はこれだけ出そう…お前はどうする?」


旭さんはポケットから財布を出すと、万札をグラスに適当な枚数入れた。

パッと目で見る限りでは5万円くらいはある。
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