イジワル社長と偽恋契約
「…少々お待ち下さい」


走って自分のデスクの方に向かいロッカーの鍵を開けてカバンから財布を出して開けると、

中身には五千円札が2枚しか入っていなかった。


私はとりあえず五千円札一枚を取り、すぐに旭さんの元へ戻るとくるくるとお札を丸めてグラスにささっと刺した。





「五千円…?」

「申し訳ございません。私は社長と違って普通のOLですので…」


それに賭け事にお金なんてかけたことのない私に、大金なんて出す気もさらさらない。


そんな私を見た旭さんは肩を震わせてくすくす笑うと、「まあいいだろう」と言って顔を上げた。





「お前が勝ったらこの金はお前の物だ。負けたらお前の出した五千円を含めた金が俺の物になり…プラス俺の命令を一つ聞いてもらう」

「…そっちがいい思いし過ぎてないですか?私が勝った場合も命令する権利を頂きたいです」


お金がもらえるよりもそっちの方がやりたくて仕方が無い。


こいつが一つだけ私の言う事を聞いてくれるなんて…

考えただけでもワクワクしてくる。






「…いいだろう」

「では早速」


私はそのままソファーに深く腰掛け姿勢良く座り、社長をじっと見つめた。

顔をしかめる旭さんは私を不思議そうな顔で見る。





「…何をしているんだ?」

「社長を観察しているんです。この賭けに負けたくないですからね!」


何が何でもこの人の全てを見切ってやるから!

隅から隅まで洗いざらいさらけ出して、いつかきっと弱みを握ってやるんだから!






「面白い奴…少しは楽しめそうだな」

「ありがとうございます。褒め言葉として受け取ります」


その日は1日社長を観察していた私。


彼の言っていた通り今日のスケジュールは全て旭さんが決め、私はそれに従って動いた為いつもの何倍も疲れた。


予定を自分で決められないだけでこれだけ疲れるなんて思ってもいなかった…

それに疲労だけで旭さんの事はほんのちょっぴりしか知れなかった気もする…







どさっ…


体を引きずるように家に帰宅した私は、スーツも脱がないでとりあえずリビングのソファーに寝転がる。




「あー……」


一日の疲れが口から声として出てきて、私は仰向けに寝転がると重い体を起こしてキッチンに向かい冷蔵庫を開ける。


そして冷えた缶ビールを一本出して、その場でプシュッと開けて飲んだ。


それだけで一日溜まった疲労が少しだけ吹っ飛び、一瞬でリフレッシュした気持ちになった。




さてどうしよう…

旭さんとの賭けに勝つには…これからどうしたらいいのかな。
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