イジワル社長と偽恋契約
社長は傘を閉じて、私のいるビルの屋根のある出入口まで来ると私からiPadを受け取った。





「社長って忘れ物するタイプなんですね。意外でした…」

「こんなのわざとに決まってるだろ。お前が秘書の仕事を全うしてるかどうか試したまでのことだ」

「は?」


わざと!?

ってことはわざわざ10分歩いてここまで来て、ビルの最上階のレストランまで忘れ物取りに行かせて、

ここまで降りて来たのも全部旭さんの「わざと」に付き合わされてたってことになる。





「ひどいです!人を試すようなことして!それに秘書を雇うのは嫌いって言ってたじゃないですか!!」

「スケジュールを管理されるのが嫌いと言っただけだ。お前には雑用兼、間使い…ま、後は時々秘書でもやってもらおう」


また旭さんに一本取られた気がした。

賭けにまだ負けたわけじゃないのにこの敗北感はなんだろう…





「それで?私がちゃんと忘れ物を取りに来たのを確認したのをそこでチェックしてたというわけですか」

「その通り。ちゃんと仕事をしてくれたし、雨が降ってるなら傘くらい貸してやってもいいと思っただけだ」


黒くて大きな傘をバサッと広げると、旭さんは傘を私の方に向けて中に入れようとする。

突然の相合傘状態に私は急に恥ずかしさを覚えた。





「いいです!傘なんてコンビニで買いますから」

「ここから一番近いコンビニはまた駅まで戻ることになるぞ。それに雨もどんどん強くなってきた…傘を貸すだけじゃなく家まで送ってやろうか?」

「だ、大丈夫ですよ」


なに急に優しくなってんのよ…

調子狂うな。





「なら傘だけ貸す。その代わり傘はこれ一本しかないから俺の車までは付き合え」

「車はどこに止めたんですか?」

「ここのビルの近くのパーキング」


ということは、多分北口の方にあるパーキングだな。

ここはそこくらいしか車を停めるところがないし…





「パーキングまで送ります」

「わかった」

「ちょ、ちょっと待ってください」


傘を持って先に歩きだそうとする旭さんを止めると、彼は不思議そうな顔で振り返って私を見つめる。






「傘は私が持ちます」
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