イジワル社長と偽恋契約
空になったランチボックスを旭さんから受け取ると、私はすぐにキッチンに向かいそれを手馴れた手つきで洗い始める。


LINE既読をつけてしまったから早くレスしたいところだけど…

後で適当に理由つけて断ればいいか。






「三井」

「なんでしょう?」

「歯磨き粉ないから買って来て」

「ええっ!」



その日…旭さんと私は40分遅れて仕事に行った。








ガチャ


「お疲れ様です」


午前中の会議を終えた旭さんが社長室に戻ると私は頭を下げた。

旭さんは「ああ」と返事をした後で、自分のデスクにドカッと腰をかける。






「社長。この後は理事会なのですぐに支度をして移動を…」

「…理事会は明日のはずだろう?この後はがY社との商談入っている」

「昨日連絡を受けまして今日に変更になったと…」


旭さんは私の報告を聞くと、少し焦ったみたいに椅子に深く座り直す。




「そういえばそうだった…」


疲れたように目頭を押さえる旭さんを見て、私は昨日の事を思い出していた。


理事会が変更になったと連絡を受けた私は、マーケティングから戻ったばかりの社長にその事を話したのだが…

その時の旭さんはから返信をして、正直聞いているのかわからなかった為心配していた私だけど…


社長は私なんかに子うるさい事を言われたくないかなと思い、何も言わなかったのだ。






「あの…先程Y社へ連絡しまして商談は明日の午後にずらしてもらいました」

「…え?」


驚いた様子の旭さんは、俯いていた顔をはっと上げて私の方を見る。

私は怒られる事を覚悟して続ける。






「勝手な事をして申し訳ございません。社長は本日朝からお忙しいのがわかっていたので、私の方で調整してしまいました…先方は明日の午前中ならいいとおっしゃっていましたし特に問題はないかと…」

「…」


黙り込んで無表情の旭さんの表情は、何を考えてるのか読み取ることが出来ない。

小言を言われるのを承知で私はぐっと心に力を入れた。





ガタ…


何も言わないままデスクから立ち上がる旭さんにビクッとなりながらも、彼は私にゆっくりと近付いてきた。

私は緊張しながら彼を見つめていると、私にスッと何かを差し出して来る。
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