イジワル社長と偽恋契約
私はコートとバックを持って逃げるように社長室から出て行き、急いでケーキ屋に向かった。




…やっぱりね。


20分後。おおかた予想はしていたが、ケーキ屋はかなりの混雑。

私は大行列の最後尾に並び、自分の番がいつ来るかもわからない絶望感に参っていた。


おまけにもう4月の中旬だというのに、コートを羽織っても少し肌寒く感じる陽気。

こうやってじっと待ってるのって辛いな…

しかも今日は生憎の曇りで太陽が出てないから余計に。



スマホを出して時間を確認すると、時刻は11時30分を回ったところ…

あと30分で昼休みだけどそれまでに買えそうにないや…

ついてないな。



それにしても…社長は誰にケーキを買うつもりなんだろう。

もしかして女性にプレゼントとか?



うーん…と考えながら時々スマホをいじったり列に並んでいる前後のお客さんの人間観察をしていると、

なんだかんだで時間が過ぎて私の番になり何個かケーキを購入した。


会社に帰ると13時を過ぎていてもうすぐで14時になる時間。

社長室に入ると、ちょうど旭さんが理事会から帰ってきたみたいだった。






「…ケーキは買えたか?」

「はい…1時間程並びましたけど」

「ハハハ。それはご苦労様だったな」


笑いながらソファーに仕事用のカバンを置くと、旭さんはネクタイを緩めて疲れたのかデスクの椅子に座るとふぅとため息を吐く。






「誰へのプレゼントか知りませんが、こういうのは前日に言って下さらないと困ります」


私はコーヒーを入れようと給湯スペースに行き、お湯を沸かしながら旭さんに話しかける。






「誰へって…これはお前へ買ったつもりなのだが」

「え?」


棚からカップとコーヒー豆を出した私は、旭さんの言葉に思わず動揺して豆の入った瓶を持つ手が震えた。





「あの…私へってどういうことですか?」

「そのままだ。お前があのケーキ屋を好きだと聞いたから、たまにはご馳走してやろうと思っただけだ。女に尽くしてもらってばかりは好きじゃないからな」


そう言うと旭さんは優しく微笑み、足を組んで椅子に座り直す。

ドキドキしながら彼に近づき入れたばかりのコーヒーを差し出した私は、「ありがとうございます」とお礼を言う。






「どうして私があそこのケーキが好きだとご存知なんですか?」


そんな話したことないよな…

旭さんにそんなこと絶対に話すわけないもん。






「さぁどうしてでしょう?このコーヒーの味が俺の好みだったら教えてやる」
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