イジワル社長と偽恋契約
「さあ次ー!妙の番だよ♪」


仕切り役の香苗に指を差される私の緊張は一気に増し、何を言ったらいいのかわからなくなった。

友達に恋人を紹介するなんて初めてだし、それに本当の恋人ではないし…





「俺達は…なんて言ったらいいのかな。とりあえず秘密のカップルってとこですかね。上司と部下同士の恋愛ですから」


旭さんは私の肩を抱いて言うと、必要以上にぴたりとくっついて来てラブラブなカップルを演じているように見えた。

周りにいる友達は笑い好感を得ているようにも見える。


さすが…多分色々小細工かけて来るとは思ってたけどやっぱりか。

私もちゃんと演技しないとな…今回も負けたら悔しいし。


賭けにこだわらないフリしてたって、勝負が始まった時点で私の中の元々の負けず嫌いの血が騒ぎ始めるのだ。






「私達禁断の関係なの!」


顔をひきつらせながら旭さんに乗っかって、自分も彼に近寄るポーズをする。

石鹸のような清潔感と、男っぽさが少し混ざり合ったような香りにドキドキしてしまう。



いつもは仕事上でのパートナーでしかない旭さんだけど、演技だとわかっていてもこんなふうに接すると異性として意識してしまう…


いや、男性としてはちゃんと見ているんだけど…

やっぱり旭さんと一緒だと仕事モードになってしまう。


だけど今日はなんだかいつもとは違った…







「んー美味しい!こんな素敵なお店を知ってるなんて、さすが有名な会社の社長さんですね♪」

「本当本当!」


香苗と真希が顔を見合わせてから「ね〜」と口まで合わせる。

美味しい食事とお酒が進む中、会話も盛り上がりを見せていた。


男性達はお互いの仕事の話や趣味の話をして盛り上がっている。

恋人のフリなのに私の友達やその彼氏と打ち解けてくれている旭さんを見て、また胸がキュンとした。


偽りなのに…割り切れない自分がいてすごく落ち着かない。


もう28歳のいい大人なのにまるであどけなかった10代の子供に戻ったみたい。

中・高生の頃の気持ちに戻ったと言ったらいいだろうか…とにかくそわそわしてしまう。






「皆の付き合う事になったらキッカケは?せっかくだから教えてよ」


白ワインを一気に飲み切る真希は、そばにあったワインボトルを持ち上げながら言う。





「俺達は察しの通りで社内恋愛。上司の俺が部下に惚れちゃったまでです」
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