イジワル社長と偽恋契約
旭さんの言葉に皆クスクス笑った。

私も笑いながらグラスに入ったワインを飲み干すと、旭さんはボトルを持ってお代わりをついでくれた。






「ありがとう」


さり気ない気配りさえ恋人っぽく演じる彼に、本気で惚れてしまいそうなる。


旭さん…本命にもこんなに優しいのかな?

そもそも好きな人に対してどんなふうに接するんだろ?

多分彼女をリードする派なんだろうけど…全然想像つかないや。






「それにしても妙がこんな立派な人と付き合うなんてビックリ。大学の時は男の気配全くなかったもんな」

「え…」


ほろ酔い気分の遥也は私をニヤニヤしながら見て言って来ると、香苗がそれに乗って続ける。




「妙にはたまたまいい人がいなかっただけよ。だけど大学時代妙は私達の中で一番成績良かったじゃん?だから今じゃこの中でキャリアは勝ち組!それに旭さんみたいな人が恋人になったならもう言うことなしだよね!」

「そうだな!」


私の事を褒める香苗と遥也を見て、私はこの場で大声をあげて否定したかった。

でも口が動かなかった。


真希がフォローするような言葉を言ってくれていたような気がしたけど、私の耳にはハッキリとは聞こえてこない。



大学時真面目に勉強がしたかったわけじゃない…出会いがなかったわけでもない。


遥也が好きだったけど…私には望みがなかった。

ただそれだけだ。


だから勉強したり資格を取ったりして木を紛らわして、自分を励ましていた…


香苗や遥也がそんな私の気持ちを知らなくて当たり前なのに…

直接本人から言われると傷つくな。



キャリアがある訳でもない香苗は、私の好きだった人と結婚して幸せそう。

なのに私は…恋人でもない人とこの食事会にいるなんて…惨めすぎる…


やばい、泣きそうだ…






「残念だったな」
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