イジワル社長と偽恋契約
泣きそうになりこの場から一旦離れようとした時、旭さんが突然明るい口調で言った。

私が目を向けると、彼はワインを飲みながら残念そうな顔をする。






「妙と歳が近くて同じ大学なら良かった。そしたらもっと早く付き合えたのに…」


私の体の中と周りの時間が一気に止まった気がした。

旭さんのその一言で惨めな気持ちは一気に吹っ飛んだ…


今回の勝負も私の完敗だ。

偽りでも嘘でもなんでもいい…


この場にふさわしい最高の言葉をもらったんだから…

私の涙も止まった。






「妙。いい人に会えて良かったね」

「…うん」


自分の事のように言う香苗に私は笑顔で頷いた。

香苗や遥也に対するモヤモヤした気持ちが晴れていく…過去の自分はもうどうでも良くなった。








しばらく経ってそろそろお開きか二次会に向かおうかと話している頃、私は席を立ってトイレでメイクを直していた。


憂鬱だった食事会だけど…結構楽しいし何とかなって良かった。


旭さんに感謝しなきゃ…

今度の朝食は少し奮発しちゃお。





ガチャ…




「ぁ…」

「よ」


トイレから出ると旭さんがレストランの廊下の壁に腕を組んでもたれかかっていて、私を見るなりこっちに近づいて来る。





「あっちは二次会どこ行こうか盛り上がってるけどいいのか?」

「明日休みだし私はどちらでもいいです。社長は帰っても大丈夫ですよ」


さすがに二次会まで付き合わすわけにはいかない…食事会に参加してくれただけで十分だよ。







「お前が行って俺が帰るなんて変だろ。俺も明日は休みだから別に構わないよ」
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