イジワル社長と偽恋契約
私が一人暮らしするアパートは社宅扱いしている為、家賃も何割か会社の手当として支給されている。

都内の下町でとても暮らしやすい所で、東京にも出やすく私はとても気に入っていた。






カタ…



リビングのテーブルにバックを置いて椅子に深く腰掛けると、ミネラルウォーターを開けてグビグビと飲む。

その時、部屋の隅に封を開けて置かれたままの段ボールが目についた。



お母さんが送ってきてくれた荷物…

封を開けたまま全然手をつけてない…


中身はレトルト物やお菓子だった。

この前も送って来たばかりなんだからまた送って来なくてもいいのに…

まあ、私があんまり実家に帰ってないから心配して送って来てくれてるんだろうけど。






「はぁ…」


ペットボトルを置き、ため息をついた後に一息つくようにバックからスマホを出してギャラリーを開く。

そして今日撮った香苗の結婚式の写真を眺めながら、テーブルに肘をついた。



香苗綺麗だったな…

私もいつかウエディングドレスを着て、皆に祝福される日が来るのかな。

全然想像出来ないけど…




♪♪~


その時写真を見ていた画面から急に着信中の画面に切り替わり、電話が鳴ってびくっとなる。


画面には「麗子(れいこ)さん」の名前が…

私はすぐに電話に出た。





「…お疲れ様です。三井です」

「あ、もしもし。私ですけど夜分遅くにすいませんね…今大丈夫?」

「はい、大丈夫ですけど…どうかなさいましたか?」


電話の相手は、私が秘書をしている白鷺ハウス社長夫人の麗子さんだった。



部屋の時計を見るととっくに11時を過ぎていて、こんな時間に私に連絡をして来るなんて初めて。

何かあったと言う事はすぐに予想出来た。






「…実は主人が……」

「え?」







それは本当に突然の事だった。

10月になったばかりのある日。



社長が脳梗塞で倒れ亡くなった…

まだ50代前半…

亡くなるには早過ぎる年齢だった。




数日後。

慌ただしい中社長のお通夜がしめやかに行われ、日本や世界でも有名な建設会社の社長が亡くなったということもあり、マスコミやメディアが飛びついてうちの会社に張り付いていた。


そんな事よりも私は社長が亡くなったことがショックで、まだ現実を受け入れられずにいた…



社長を心から尊敬していた私は、生涯彼の側で秘書をしていたいと密かに思っていたのに…


あの若さで亡くなるなんてあまりにも早すぎる…

健康管理はしていたし、私も社長の食事や体の事は把握していたと思ったのに…


社長が亡くなったのは私の責任だよ。

誰よりもいつもそばにいた私が、彼の体の変化に気づいてあげられなかった。


それに私がそばにいなかった日に亡くなったなんて…

秘書の私からしてみれば辛すぎる…






「あなた…」
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