イジワル社長と偽恋契約
「家?今日香苗も一緒なんじゃないの?」

「そんな事言ったっけ?」

「言ってないけど…いつもそうじゃん!会う時は3人か真希も誘って4人が定番でしょ?」


私がそう言うと遥也はビールの入ったジョッキをテーブルに置いて、お通しの枝豆を一つ口に頬張った。






「たまには2人で飲んだっていいじゃん。今日は俺が奢るからたまには付き合ってよ」

「…」


遥也の力ない口調と酒の進み具合からして、香苗と何かあった事は明らか。

私は心配でたまらなくなったが、とりあえず運ばれて来たビールを飲んで落ち着くことにした。







「大体さ…金の管理はあっちがやりたいって言ったのに全然出来てねーわけよ。いくら共働きでも貯金しないとまずいわけじゃん?なのに服だ遊びだってなんなんだよ本当に…」


飲み始めて一時間もすると、遥也は香苗に対する果てしない位の量の愚痴をベラベラと吐き出していた。


私はしばらく黙って聞いていたが、遥也の飲む酒がビールから焼酎お湯割りに切り替えた時にやっと口を開いた。






「まあ色々あるんだろうけどさ…夫婦なんだしちゃんと話し合ってみたら?」

「散々話し合って来たよ。何かあれば話話話ってもううんざりだよ」


あんまり酒が強い方じゃないくせに遥也がこれだけ飲むなんて…

よっぽどストレスがたまってるのかな。


何にせよ、私が結婚してる遥也と2人きりで飲みに来てるっていう状況はいい事じゃないよね…

香苗が知ったらいい気はしないだろうし。


私は酒のペースを早めてなんとか早く帰る方向に持って行き、焼き鳥屋を出るまではいけたのだが…

駅の近くで酔っ払った遥也に駄々をこねられた。






「ほらタクシー乗って!早く帰った方がいいよ」

「今日は帰らないって言ってるだろ…香苗と会いたくないんだよ」


何度説得しても遥也は帰ろうとしない。

よっぽど香苗と顔を合わせたくないのか…


あんなに仲が良かったのに結婚してからこんなにふうになるなんて…

身近でずっと2人を見ていたからなんだか寂しくも思えて来る。






「もう一件だけ付き合ってくれよ妙…そしたらちゃんと帰るからさ」

「きゃっ…」
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