イジワル社長と偽恋契約
呂律の回らない口調で私に抱きついて来る遥也は、私の知らない人みたいに見えた…


こんなの遥也じゃない。


私が好きだった遥也は香苗を好きだった遥也なの…

あんなふうに私も誰かに愛されたいと思った。

本当に憧れていたのに…私にこんなことするなんて…



そう思った時…私の中に旭さんの顔が浮かんで来た。

どこかで彼が今の私の事を見ていて「ほらな」と言われたような気がしたのだ…

後ろめたいと…本気で思った。





「やめて…」


冷静で尚且どこか上の空状態の私は、ゆっくりと遥也を自分から引き離す。

その瞬間旭さんに対する気持ちが正確にわかった気がした…




私は旭さんが好き…

彼の事が好きなんだ…







「…ごめん。ちょっとふざけ過ぎたな」

「そうだね」


正気に戻ったのか遥也はふうと深呼吸をして、自分の頬に思いっきりビンタしていた。

こういう所昔から変わってない。






「…ごめん妙。俺お前に甘えてたよ…」

「いいんだよ。友達なんだから」


私は目の前のタクシー乗り場に行き一台捕まえると、遥也を手招きして車内に入れた。




「ちゃんと帰りなよ。香苗によろしくね」

「ああ…本当にごめんな」


私は「はいはい」と軽くあしらってタクシーのドアを閉めると、遥也は苦笑いを浮かべながら帰って行った。


心がスッキリしている…

やっと遥也と友達として付き合えた瞬間だった。








「…!」


その時…ふとロータリーの中の方に目を向けた時だった。

見覚えのある高級車から出てくる、見慣れている人がこっちに向かって来る。


怒っているような…そんな顔をしている彼を見て、私は思わず涙が溢れてしまった。








「…上司の言う事を聞かないからこうなる。ダメな部下だな本当に」

「…ふふ」


私の前まで来るとスーツ姿の旭さんは、ポケットに手を入れながら私を叱るように言った。


本当にそうだ。

私は本当にダメ…


こんな私だけど…



たった今ちゃんと恋を見つけた。









「行くぞ」
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