イジワル社長と偽恋契約
旭さんが私の手を引いて歩き出す。

迷子になった子供が親に引き取られたみたい…

ロータリーに止めた車の前まで来て助手席に乗り込むと、運転席に乗る旭さんが私をじっと見つめてきた。

シートベルトをしめていた手が止まり私は彼を見つめ返す。






「…あいつより俺を選んだってことは……俺の色仕掛けに乗ったってことか?」

「…」


真顔で言う旭さんの表情を見ても、冗談なのか本気なのかわからない。

でも…そんなこと今はどうでもいいと思った。






「はい…」


素直に頷いてしまった。

もう何でもいい…

嘘でも状態でもいいから今夜は彼と一緒にいたいから。



旭さんの大きな手がこっちに伸びてきて、私の髪の毛に触れた。

私を撫でるように髪をとかすような手つきにドキドキしてしまう…


冷えた頬に暖かい旭さんの手の温もりが伝わって、嫌なことを全て忘れてしまいそうだ。

そして彼の顔が近づくと私は瞬きを何度か繰り返した後、そっと目を瞑った。




唇にそっと触れる旭さんの唇…

すごく優しいキス。


こんなキスは生まれて初めて…





車内に2人きりの時が流れる…


今は私達の時間しか進んでいない…



2人だけの空間の中で、

私達は上司と部下の関係を越えたのであった…
< 60 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop