イジワル社長と偽恋契約
慌ててパニックになる私とは反対に、旭さんは至って冷静だ。

すぐさまボタンの所へ行き非常用ボタンを何度か連打で押してみるも、何も応答がない。





「しゃ、社長!どうしたらっ…このままだと私達…」

「…落ち着けバカ」

「でも…」


エレベーターが突然故障して動かなくなるなんて初めてで、落ち着くなんて出来ない私。






「俺と一緒なんだから大丈夫だよ」

「…」


私の頭をくしゃっと撫でながら旭さんはそう言って、スーツのポケットから電話を出した。

今の言葉にキュンとしたと同時にどこか安心している自分もいる。


なんて頼もしい人なんだろう…

やっぱり旭さんてすごくかっこいいな…





その後、旭さんがエレベーターの管理会社と連絡を取ってくれて至急対応してくれるとの事。

とりあえず私達はその場で待機となった。


お互いに両端の壁に向き合ってもたれ掛かりながら、いつになったらエレベーターが動き出すのかわからない状態が続く…


こんなことが現実に起こるなんて…

ドラマか漫画の世界だけかと思ってたのに…







「動かないですね…」

「慌てるな。俺らではどうしようも出来ないんだから、ここでじっと動くのを待つしかないだろう」

「そうですけど…午後までには動くでしょうか」


大切な会議があるから遅れるなんて事は絶対に避けたい。

午前中に重大な仕事を入れてないことは唯一の救いだが…





「わかんね。心配してたって仕方が無い。会議に遅れたらその時はその時だ…今は大人しく待とう」


腕を組んで壁に寄りかかる旭さんは、そう言ってあくびをしていた。
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