ダサい兄貴がいる友達と仲良くなる話
スッと人影を感じ、目を開けると親戚の人が戻っていた。
「あれ? 飲まないの?
って、えっ?
なんで泣いてるの?」
驚いて、あたしの目元を親指でぬぐってくれた。
「あっ… すみません…
違うんです…
ちょっと寂しくなってしまって…」
こんなこと言ったら、困らせるだけなのに…
ギュッ…
えっ?
急に目の前が暗くなった。
何が起きたのかわかるまでに時間がかかった。
頭まで凍ってしまってる…
抱きしめられてるんだ…
「ゴメン、もうどこにも行かないから。
泣かないで…」
優しい香りがする…
親戚の人の体温で心が溶けていくのを感じた。
人のぬくもりって、こんなに安心するんだ…
気がつくと彼の背中に手をまわして、あたしも抱きしめていた。
*******
「涙、止まった?」
顔を覗き込まれて、恥ずかしくなる。
うつむきながら、コクリっと頷くと
頭をポンポンと撫でられて、ベンチに並んで座った。
「缶、出せる?」
どっちのだろう?
首をかしげながら両方の缶を取り出した。
ココアを取ると、親戚の人のコートからコーヒーが出てきた。
「手がすごく冷たかったから、もうぬるくなっちゃったと思って」
ニコリと微笑んだ。
ココアは、まだ十分温かったけど、コーヒーに替えてもらって、ぬるくなっていたことを感じた。
反対の手にはおしるこを握らされた。
おしるこ、久しぶりに見た!
なんだか、心がほっこりして自然と顔がほころんだ。
「やっと笑ってくれた。
顔がずっとこわばってたから」
本当に安心した顔であたしを見てくれた。
こんなに心配してくれてたんだ…
「小夜ちゃんとあたし、ずっと電話してたのに、どーやってここがわかったんですか?」
手も足も温かくなってきて、頭が少しずつ働き出した一番始めに思った疑問。
「あぁ、小夜、美雨と話しながら、パソコンからオレにメールくれてたんだ。
場所もそれでわかった」
電話しながら、パソコン打てるなんてすごい!!
「小夜ちゃん、お兄さんが来てくれるって言ってたんですけど…?」
勢いよくあたしから目を逸らす。
「いやっ、あの…
ちょうどオレが戻ったところで上着も来たままだったし、代わりにきたんだよ…」
髪を指でクルクルしながら、あたしと目を合わせず答えてた。
「そーなんですか…
ありがとうございます。
本当に助かりました。
あの…
こんなにお世話になっていて、今更なんですけど、お名前聞いてなくて…
教えてもらってもいいですか?」
「えっ? 名前?
名前… 名前、言ってなかった?
オレは… シド!
シドって言うんだ! よろしく」
自分の名前を言うのに、間があったような…
あたしに教えたくなかったのかなぁ…
こんな迷惑ばかりかける子に教えたくないよね。
気をつけなきゃ。