レインリリーで待ってる
公生くんのことが気になり始めたのは、高校1年生の春。
駐輪場で私が自転車を倒してしまって、そこに左手で前髪をいじり、右手に文庫本を持った公生くんが歩いてきた。
「倒しちゃったのか?」
公生くんの第一印象は、くせっ毛の黒髪が似合う、物静かそうなイメージ。
「あ、はい……」
すると、公生くんは、黙って私に文庫本を渡して、倒れた自転車を起こしてくれた。
「あ、あの……ありがとうございます……」
そうお辞儀した私に、公生くんは、「ん」と言って、右手を差し出してきた。
「え?」
「本」
「あ、はい……」
なんて題名の本か忘れたけど、その本を私から受け取ると、公生くんは、行ってしまった。