リワインドの神は虚しき骸にして愚かなる人間。
*
オレは一度死んだ。そして、神になった。
考えれば考えるほど狂ったその考えは、二十年以上まとわりついて離れない。
オレが認めない世界は前へと進まず、オレが気に入るよう世界は何度でもやり直される。
毎日毎日毎日毎日……
オレが妥協しなければ、世界は明日へと進めない。
だから、今日もやり直せばいい。
「そ、そうだ……やり、やり直せば」
我に返ったオレは革張りのソファーから起き上がり、そこにあるものを見た。
テーブルの横に倒れた、彼女の姿を――……
薄く開かれた瞼は白目を剥く眼球をさらし、血に染まった長い髪が頬に張りついている。
後頭部から血を流した彼女がいた。
死んでいた。
放心していた間に眠ってはいなかっただろうかと心配になり時計を確認するが、文字盤にべったりと乾いた血がこびりついていた。
最初思わず彼女を助けようと抱きかかえた時についたのだろう。
ちくしょう、これブルガリだぞ?
爪で血をこそぎ落として時刻を確認するが、その両手も血まみれだった。
ああ、アルマーニのスーツが!
放心していたのはほんの一瞬だったのだろう。
彼女を抱きかかえ死んでいることに気が付き、ソファーに尻もちをついてから一分と経っていなかった。
「絵美……」
彼女の名前が唇からこぼれる。
如月絵美、キサラギコーポレーションの社長令嬢にしてオレの婚約者。
三年かけて口説き落とし、ようやく式にまでこぎつけたというのに。
彼女に今までいったいいくら貢いだと思っている。
彼女と最初に出会ったあのパーティーの日など、次の約束を取り付けるために三十四回もその日をやり直したというのに!
彼女が死ねば、すべてが水の泡になってしまう。
次期社長の座が……
最初はお高くとまった女だったが、今ではオレに入れ込み都合のいい女になってくれた。
多少、いやかなり病的なまでに思い込みが激しく気性の荒い性格ではあったが、それでも彼女の価値が下がるわけではない。
「知ってるんだからね! 他に女がいるんでしょう? 昨日は仕事とか言って、どこの女と会ってたのよ!」
泣き喚きながら物を投げつけられ、頭を三針縫ったのはまだ記憶に新しい。
今日もまたそれかと半ば呆れ果てながら、居もしない女の影に怯えて嫉妬し狂乱する姿に心底嫌気がさした。
仕事で疲れていたこともあり、彼女の頭が冷えるまで少し席を外そうと投げつけられたクッションを受け止めながら扉に向かう。
「いやあ! 修ちゃん、お願いだから行かないで! 捨てないで! いいよぉ、いいからぁ……私のこと好きじゃなくてもいいから、ずっと側にいてよ!」
泣いてすがりつく彼女の慌てように苛立つ。
「放せよ!」
少し強く、彼女を突き飛ばしてしまった。
倒れた彼女の後頭部が、机の角で潰れる音が重く響く。
考えれば考えるほど狂ったその考えは、二十年以上まとわりついて離れない。
オレが認めない世界は前へと進まず、オレが気に入るよう世界は何度でもやり直される。
毎日毎日毎日毎日……
オレが妥協しなければ、世界は明日へと進めない。
だから、今日もやり直せばいい。
「そ、そうだ……やり、やり直せば」
我に返ったオレは革張りのソファーから起き上がり、そこにあるものを見た。
テーブルの横に倒れた、彼女の姿を――……
薄く開かれた瞼は白目を剥く眼球をさらし、血に染まった長い髪が頬に張りついている。
後頭部から血を流した彼女がいた。
死んでいた。
放心していた間に眠ってはいなかっただろうかと心配になり時計を確認するが、文字盤にべったりと乾いた血がこびりついていた。
最初思わず彼女を助けようと抱きかかえた時についたのだろう。
ちくしょう、これブルガリだぞ?
爪で血をこそぎ落として時刻を確認するが、その両手も血まみれだった。
ああ、アルマーニのスーツが!
放心していたのはほんの一瞬だったのだろう。
彼女を抱きかかえ死んでいることに気が付き、ソファーに尻もちをついてから一分と経っていなかった。
「絵美……」
彼女の名前が唇からこぼれる。
如月絵美、キサラギコーポレーションの社長令嬢にしてオレの婚約者。
三年かけて口説き落とし、ようやく式にまでこぎつけたというのに。
彼女に今までいったいいくら貢いだと思っている。
彼女と最初に出会ったあのパーティーの日など、次の約束を取り付けるために三十四回もその日をやり直したというのに!
彼女が死ねば、すべてが水の泡になってしまう。
次期社長の座が……
最初はお高くとまった女だったが、今ではオレに入れ込み都合のいい女になってくれた。
多少、いやかなり病的なまでに思い込みが激しく気性の荒い性格ではあったが、それでも彼女の価値が下がるわけではない。
「知ってるんだからね! 他に女がいるんでしょう? 昨日は仕事とか言って、どこの女と会ってたのよ!」
泣き喚きながら物を投げつけられ、頭を三針縫ったのはまだ記憶に新しい。
今日もまたそれかと半ば呆れ果てながら、居もしない女の影に怯えて嫉妬し狂乱する姿に心底嫌気がさした。
仕事で疲れていたこともあり、彼女の頭が冷えるまで少し席を外そうと投げつけられたクッションを受け止めながら扉に向かう。
「いやあ! 修ちゃん、お願いだから行かないで! 捨てないで! いいよぉ、いいからぁ……私のこと好きじゃなくてもいいから、ずっと側にいてよ!」
泣いてすがりつく彼女の慌てように苛立つ。
「放せよ!」
少し強く、彼女を突き飛ばしてしまった。
倒れた彼女の後頭部が、机の角で潰れる音が重く響く。
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