リワインドの神は虚しき骸にして愚かなる人間。
****
ああ、オーケー。
諦めようじゃないか。
もう未来は変わらない。
変えられない。
過去には戻れない、戻らない。
受け入れよう、過去を未来を今を全てを。
多くの人間がそうであるように、そうしよう。
何度目覚めても、オレの胸に突き刺さった包丁は変わらない。
目覚める前に刺さってしまったのだから。
彼女が死ぬはずだった未来はオレの望み通り消え去り、代わりにオレが死ぬ未来になった。
女に刺されて死ぬなんて、完璧だと思える人生を築き上げてきた者の最後としてはあまりにも滑稽で、それ故に相応しい。
かわいそうな彼女。
社長令嬢として恵まれた人生を歩んできたはずなのに、オレみたいなのと婚約したせいで刑務所に行くことになってしまうのだから。
でも、生きてればきっといいことあるさ。
ちゃんと罪を償って、辛いこともあるだろうけど、ちゃんと生きろよ?
間違っても、後追い自殺して無理心中とかにするんじゃねえよ?
せっかくオレが時間を巻き戻して生かしてやったんだから。
オレの代わりに、オレの分も……生きなくていいかな。
何回も毎日をやり直してきたから、たぶん平均寿命ぐらいの時間は過ごしてきた気がするし。
まあ、実際には三十年ぐらいしか時間は経ってないんだけど。
自分の人生を生きてください。
リワインドの神はここで死ぬ。
文字通り殺しちゃいたいぐらい愛してくれた女の手にかかり、死ぬ。
神を気取り、自分が気に入るよう毎日をやり直し、手に入れた人生……
まあ、たった一度しかない人生ならばこんな人生歩むのもまた一興か。
奇妙な力に振り回されて、利用して、分かりやすい成功を手に入れ続けた華やかな人生。
半ば、自暴自棄に。
だって、そうじゃないか。
そうしなければ、こんな妙な力と共に生きる気になんてなれない。
「大好きだよ、修ちゃん……愛してる。私を見て、修ちゃん。私を……絵美を見て」
穴だらけになった体は、もう痛いんだか苦しいんだか寒いんだか熱いんだか。
いろんな物がぐちゃぐちゃになって何がなんだかわからない。
ついでに頭の中もぐちゃぐちゃになって、それでも彼女の泣き顔だけは妙に鮮明で……
「お父さんじゃなくて、私を見て」
涙と共に彼女が零した言葉。
その言葉に、ようやくオレは彼女を見れた気がした。
キサラギコーポレーションの社長令嬢。
その分かりやすい肩書きと、分かりやすい社長の椅子。
そんな成功を求めて、オレは彼女に近づいた。
三十四回も彼女との出会いをやり直し、求めたのは彼女ではない。
それに気づかないほど彼女が愚かであるはずもなく……きっと、彼女の周囲はそんな人間ばかりだった。
お高くとまった彼女は……
「ずっと、側にいて」
嗚呼――――
眠る決心をしてしまったオレは、目尻から流れ落ちる熱い液体に気づいていた。
もし、リワインドの力が好きなように時間を巻き戻す力であったのなら――オレは、彼女と
「リワインドの神は虚しき骸にして愚かなる人間。」了
諦めようじゃないか。
もう未来は変わらない。
変えられない。
過去には戻れない、戻らない。
受け入れよう、過去を未来を今を全てを。
多くの人間がそうであるように、そうしよう。
何度目覚めても、オレの胸に突き刺さった包丁は変わらない。
目覚める前に刺さってしまったのだから。
彼女が死ぬはずだった未来はオレの望み通り消え去り、代わりにオレが死ぬ未来になった。
女に刺されて死ぬなんて、完璧だと思える人生を築き上げてきた者の最後としてはあまりにも滑稽で、それ故に相応しい。
かわいそうな彼女。
社長令嬢として恵まれた人生を歩んできたはずなのに、オレみたいなのと婚約したせいで刑務所に行くことになってしまうのだから。
でも、生きてればきっといいことあるさ。
ちゃんと罪を償って、辛いこともあるだろうけど、ちゃんと生きろよ?
間違っても、後追い自殺して無理心中とかにするんじゃねえよ?
せっかくオレが時間を巻き戻して生かしてやったんだから。
オレの代わりに、オレの分も……生きなくていいかな。
何回も毎日をやり直してきたから、たぶん平均寿命ぐらいの時間は過ごしてきた気がするし。
まあ、実際には三十年ぐらいしか時間は経ってないんだけど。
自分の人生を生きてください。
リワインドの神はここで死ぬ。
文字通り殺しちゃいたいぐらい愛してくれた女の手にかかり、死ぬ。
神を気取り、自分が気に入るよう毎日をやり直し、手に入れた人生……
まあ、たった一度しかない人生ならばこんな人生歩むのもまた一興か。
奇妙な力に振り回されて、利用して、分かりやすい成功を手に入れ続けた華やかな人生。
半ば、自暴自棄に。
だって、そうじゃないか。
そうしなければ、こんな妙な力と共に生きる気になんてなれない。
「大好きだよ、修ちゃん……愛してる。私を見て、修ちゃん。私を……絵美を見て」
穴だらけになった体は、もう痛いんだか苦しいんだか寒いんだか熱いんだか。
いろんな物がぐちゃぐちゃになって何がなんだかわからない。
ついでに頭の中もぐちゃぐちゃになって、それでも彼女の泣き顔だけは妙に鮮明で……
「お父さんじゃなくて、私を見て」
涙と共に彼女が零した言葉。
その言葉に、ようやくオレは彼女を見れた気がした。
キサラギコーポレーションの社長令嬢。
その分かりやすい肩書きと、分かりやすい社長の椅子。
そんな成功を求めて、オレは彼女に近づいた。
三十四回も彼女との出会いをやり直し、求めたのは彼女ではない。
それに気づかないほど彼女が愚かであるはずもなく……きっと、彼女の周囲はそんな人間ばかりだった。
お高くとまった彼女は……
「ずっと、側にいて」
嗚呼――――
眠る決心をしてしまったオレは、目尻から流れ落ちる熱い液体に気づいていた。
もし、リワインドの力が好きなように時間を巻き戻す力であったのなら――オレは、彼女と
「リワインドの神は虚しき骸にして愚かなる人間。」了