お猫様が救世主だった件につきまして
「フカー!」
突然、猫の威嚇が耳に入ってきた。それと同時に、体が揺れる。遠退く意識を無理に引きもどして目を開くと、三毛猫が黒づくめの連中に飛びかかってた。
「フギャー!」
『な、何だコイツは!?』
『いててっ! 離せ!!』
「ミケ……?」
ミケが飛びかかってきた……と思うと。あたしを抱えたらしいやつの手に噛みつく。その上顔に爪を立てられたせいか、男は悶絶しながら顔を押さえた。
(あ……落ちる)
あたしの体は男の手から放されて、そのまま石畳に叩きつけられるはず……だったけど。
ふわり、と何かに受け止められて。そのまま中に落ち着いた。
「さくら、しっかりしろ!」
「アレク……?」
信じられないことに、アレクの顔があたしを覗き込んでる。こんな都合のいい夢ってあるのかな?
「あたし……夢見てるよね? だって……アレクは忙しいのにこんなところにくるはずないのに」
「おまえのためなら、どこにだって駆けつけてやる。しっかりしろ!」
バチン、と頬を叩かれて。痛みで意識が覚醒してく。
現実とハッキリ意識してから、パチパチと何度も目を瞬いてアレクが消えないのを確かめた。
「アレク……ほんもの?」
思わず伸ばして確かめようとしたあたしの手を、アレクはギュッと握りしめてくれた。
「ああ、俺だ。アレクだ。済まなかった……もう、おまえを危険な目に遭わせたりしない」
アレクは背中に腕を回して、ギュッと抱きしめてくれた。
アレクのにおい……ぬくもり。
いつの間にか慣れて安心できるものに触れて、あたしはふぇっ……と涙を流す。
「ごめんなさい……アレク。言いつけ破ってごめんなさい」
「いいや……お前は浮かれ遊んでたわけじゃない。パティからすべて聞いた……今まで下町でどれだけ働いて……努力してくれてたか。だからこそ勝てたんだろう。気付かなくて済まなかった」
「……うっ」
「おまえは、何も悪くない。俺がそばにいる……だから、安心して眠れ」
アレクが何かを呟くと、途端に強い睡魔に襲われる。アレクの腕の中で、あたしは安心して睡魔に意識を手放した。