お猫様が救世主だった件につきまして
惜別の思いを内に秘めながら、神殿も訪れた。
「どうかしましたか? まだバトルには時間が早いですよ」
「いいえ……ただ、皆さんの顔が見たかっただけですから」
あたしはアンナさんに会うと、なんとなくほっとして気が緩みそうになる。
やっぱり……おじいちゃんが好きだった人だけあって。あたしも彼女を好ましく思ってたし、懐かしさに近い慕わしい気持ちもあった。
「何だか顔色がすぐれませんわね。温かいお茶でもお飲みになれば落ち着くでしょう」
「すみません……」
「いいえ、少しだけお待ちになって」
ソファの上で謝ると、アンナさんは微笑み部屋から出ていく。そして、入れ違いで入ってきたのはヒース司祭長だった。
「……いよいよ今日ですね」
「はい。今までありがとうございました」
「後悔は……なさいませんか? 月満ちる時は来月も再来月もあります。そう急がずともよろしいのでは?」
ヒース司祭長もこちらへ留めたいようだけど、あたしはゆっくりと首を横に振る。
「いいんです……あたしの役割はこれだけ。その役割を果たせば必要ない人間ですから」
「誠に、そう思われるのですか? 殿下のお気持ちを……」
「アレクは……関係ない!」
思わず声を荒げてしまい、自分でも驚いた。ヒース司祭長はただ、目を細めて問いかけてくる。
「未練残さば、良からぬ影響があるでしょう。ですから」
「いいんです、もう。あたしは決めましたから……日本へ帰ると。アレクはたぶん止める……でも、そんなのきっと本心じゃない。これ以上……彼の側にいるのがつらいんです。
だから……諦めるから。今、彼の幸せを願うなら……お別れするしかないんです」
流さないはずだった熱いものが頬を伝い、膝に落ちる。ヒース司祭長はそっとあたしの肩に手を載せた。
「……わかりました。あなたの決意がそれほど固いのでしたら……わたくしがお還ししましょう。あなたを、ニホンへと」
――その時、カタンという音が廊下から微かにしたけど。泣いてたあたしの耳に届かなかった。