妖しの姫と天才剣士
覚醒《総司side》
⁉︎ どこに消えた⁉︎
ちょっとした間で目の前から消えた奴。
「––––か。茅野ちゃん?」
俺の声? そんなのあり得ない。第一、声なんて発して––––。
後ろ?
振り返った瞬間に目に見えたのは。
「茅野…………ちゃん?」
ボタボタと胸から血を流した茅野ちゃんの姿。
その背から出ていた刀を持っているのは奴。
「て、てめぇっ!」
「最初からこうしとけば良かった。
ここで死んだんだったら偽者ってことか」
彼は頬に付いた返り血を指で拭い、それをペロリと舐めた。
美味しそうに顔を綻ばせる。
ハハッ。
守れなかった……って事?
俺は茅野ちゃんを。
大切な、人を。
「さい……あっくだ」
殺されると聞いて急に刀が振るえなくなった。
彼を殺す事で茅野ちゃんまで失う事を恐れたから。
何度でも殺せる機会なんてあったのに。
俺はそれができなかった。