妖しの姫と天才剣士
やばいって!
道を縦横無尽に走っていると、頬に水が落ちる。
天気雨……? 頭にぽつりと落ちた雫は少しずつ量を増していって。
運悪すぎでしょ。
「あっちに居たぞ!」
そう叫ぶ声が聞こえて、また走り出す。
足を止めて息を整える事すら出来ない。
さいっあく。今日の私、ダメダメ過ぎない?
うじうじして、道に迷うし、敵にバレちゃうし。
らしくない。本当にらしくない。
「馬っ鹿らし」
口元が緩んだ瞬間、足元を何かが掠めて足を止めてしまう。
上を見上げると私を追っていた浪士の一人が屋根の上に居た。
やっぱり、その姿は異形だ。
「この姿を見られただけで生かしては置けない。
残念だが死んでもらおうか」
「妖に魂を売り渡した外道どもが」
私は刀に手を掛けて彼を見上げた。
残念だけど、ここで死ぬ訳には……いかない。
あなた達に死んでもらうしかない。