妖しの姫と天才剣士
妖術か?
飛んでくる水を避けながら肉薄する。
雨でじっとりと濡れた着物は気持ち悪いけどそんな事は言ってられないよね!
振り下ろした刀を受け止められる。
「っち! この姿で力負けするなど!」
じりりと足を引きずった彼。
「私があんたみたいな奴に負ける訳ないだろ」
強者揃いの幹部の多いあの中でやりあっていけている。
その自信は何よりも大きい。
着実に押し込んで、少しずつ小さな傷を沢山付ける。
血を流し、片膝をついた彼。
ギラギラと不気味に光り出し、紅く変わった瞳。
その目は人のものだとは到底思えない。
早く、ラクにしてやるよ。
下から斬りあげようと思った途端。
「––––––––つぅ!」
視界が歪む。頭の奥がズキズキと痛み出して、立っている事さえ苦痛に感じた。
頭を押さえ、下を向いた私に向かって近づく足音が聞こえる。
今さっきの彼だ。
その傷はいつの間にか塞がっていた。
厄介な。
振り下ろされる刀を足で蹴り、軌道を逸らすと立ち上がる。
何かを訴えるような響きが私の頭を揺さぶり続けた。
応援に駆けつけた浪士たちが合流する前に逃げるか、終わらせないと。
異形の者ばかりに囲まれて、正直一人でやれるとは思わない。