妖しの姫と天才剣士
「戻りますよ! ったく、何で私が……」
私は腕を組みながらため息を吐く。
「むぅ……まだ食べたかった」
不満そうな顔をしながらも沖田さんは私の前を歩く。
そのお金、土方さんのですよね?
お金だってそんなにないでしょう?
沖田さんはすこし進んだ所で足を止めた。
その背中にぶつかりそうになって、慌てて足を止める。
「勘弁して下さいよ! 芹沢様! 今日で何度目ですか、ツケるのは。
いつになったら本当に払ってくれるんでしょうか⁉︎」
「その内払うと言っておるだろう」
「ですが!」
「煩いのう! この京の町が守られているのは誰のおかげだと思ってるんだ!」
店先に転がされたのは店主のようだ。
ヒィ!と声を上げて頭を垂れた。
その先に見える人影に沖田さんは今までに見た事がない程険悪な雰囲気を纏っている。
内に秘めているものはそれだけで平気に人を殺せそうな気がした。
知っている人なのだろうか? 芹沢さんっていう人は。
その時、転がした方の男が総司に気がついた。
「おお! 沖田か! 久しぶりだな!」
「……お久しぶりです。芹沢さん」
たぷんと効果音が聞こえるくらい腹の出た男の人。
芹沢さんと呼ばれたその人は昼間から飲んだくれているようで既に出来上がっていた。
多分、沖田さんの声が冷え切っている事にも気づいていない。
苛立った様子にも気がついていないのだ。
「お? どうしたんだ? その彼は」
「新入りです。遅くなるなと言われているのでもう失礼しますね」
自分は団子屋でゆっくりしてた癖に言えるの?
引き止めようとした芹沢さんを振り切る。
沖田さんは私を置いて先に歩き出してしまった。