妖しの姫と天才剣士
「山崎くん。どうしましたか」
漆黒の忍び装束を身に包んだ山崎さん。
何か……あったの?
軽く息を整えた山崎さんは真っ直ぐに山南さんを見る。
「本命は……池田屋です」
池田屋?
「なんと! そちら側は人数が少ない。
いくら近藤さん、沖田くんたちがいても厳しいでしょう。
早く土方くんたちに伝令を向かわせないと」
総司が、池田屋に?
「ですが、局長の方にも誰かを向かわせなければ。
副長の隊が来るまで待つように、と」
そんな……。
山崎さんが一人で戻ってきたという事は人出は足りてない。
でも、事態は急を要する。
だったら。
「私が行きます」
「茅野くん!」
山南さんからは静止の声が聞こえた。
「私は動けます。だったら、少しでもお役に立たないと。
山南さんが動く訳には行かないでしょう」
「…………」
山南さんはふっと息を零すとそれからは何も言わなかった。
「済まない、茅野。それなら、局長への伝令を頼んだ」
「はいっ」
ごめんなさい、山南さん。
総司の言いたいことも、山南さんの気持ちも分かっているつもりです。
でも、今だけ我儘でいさせてください。
刀を差すと山崎さんと門へと向かう。
「茅野くん!」