妖しの姫と天才剣士



『罪深キ者ニ粛清ヲ』


姫様の口から紡がれる言葉は沙雪の物とは全く違っていた。


あの声よりも幾分も低く、よく通る声。


だが、そんなことを考える余裕があったのはここまでだった。


次から次に繰り出される刀。


型に一切嵌っていない剣戟。


動きからして沙雪の時からなのだろうが、身体能力が格段に上がっているせいだろうか?


その動きが予測できない。


防御に刀を回すと瞬間的に切っ先が揺れ、刀をすり抜けて攻撃してくる。


一瞬でも気を緩めてしまったらその瞬間命が飛ぶのは明白だった。


マユラの力を借りてもまだ届かぬというのか。



『憎イ! 人モ、心モ、自然モ、全テヲ壊シ尽クス!』



もはや彼女は荒御魂だ。己を殺した者の匂いが俺の体からはプンプンするのだろう。


背筋に感じる冷や汗。


今まで一切感じてこなかった恐れというものを今初めて理解した。


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