妖しの姫と天才剣士
「は、はあっ、はっ!」
ゆっくりと体を起こす。
もう左手は使い物にはならないだろうな。
感覚が麻痺してきている。
柱にもたれ掛かりながらゆっくりと立ち上がっただけで息が切れる。
下を向くと夥しい量の紅。
赤黒く染まった血の上に重なった私の血の紅い色だ。
やばい……。このままだと私、此処で……。
意識が途切れそうになった瞬間、背後から感じる気配に背筋が凍った。
また、まただ!
後ろを振り返ると妖の群れの姿。……今さっきの奴と同等に近い力を持った奴らが。
まさか、こんな所で私は妖に喰い殺されるの?
大切な総司一人も守れずに。
でも、もう動けない。
柱に寄りかかって立っているのが精一杯だ。
妖たちが近づいてくるのが分かる。
私を殺すために。
「ひじ、かた……さん……」
どうか、総司だけ、でも……。
真っ先に狙われるのは私のはずで、喰らわれている間は総司に目がいくことは無いはずだ。
お願いします。助けて、下さい。
あなたなら、この状況をどうにかしてくれると信じてるから。
ふっ、と笑みが漏れて口が緩む。
やっぱり私は駄目……だな。
大切なものを守れもしないなんて。