妖しの姫と天才剣士
「誰ですか? 貴方は」
浅葱色の羽織りを羽織った青年。
彼が首を傾げながら振り返る。
「それは……こっちの台詞です。何で、私の獲物を」
あり得ない。
こんな知らない人に獲物を横取りされるなんて。
死ねたかもしれない場所を奪われるなんて。
抱いた感情は似ているけど苛立ちとは何か違った。
「!⁉︎ 貴方には、これが見えるんですか」
しまった!
普通の人には見えないんだっけ。
他の人と関わる機会が少なくてつい忘れてしまう。
「妖は普通の人間には見えない筈です。
なのに、なぜあなたには見えるんですか?」
やっぱり、私の思ってた事は正しかったみたい。
「…………」
「沈黙。ですか」
これ以上、ここに留まっていても意味がない。
それに、直感で感じ取る。
剣士の勘か、本能的でなのかわわからないけど。
この人は危険だ……!
「おい、総司。やけに時間が掛かってるな。そんなに手こずる相手でも……」
彼の仲間。
その人の目は完全に敵を見る目その者だった。
いつも向けられてる目。殺意の隠しきれていない目。
「総司。こいつは誰だ」
ああ。
無意味な殺傷なんて嫌なのに。
この人たちも片付けないといけない。
お金にならない殺傷なんてしたくない。
「いや……でもそんな事、言える口じゃない、か」
汚れきっていて、そんな綺麗事なんて言えない。
この刀はすでに地が見えないほど汚れきってるんだ。
刀を構える。
あれ?
視界がぐにゃりと歪む。
「え…………⁉︎」
一体、何が。
私の意識は突然暗闇に落ちた。