妖しの姫と天才剣士
着物はこんなに動きにくかったんだ。
いつもより気をつけて歩かなければいけない。
普通の二倍くらいかかってようやく辿り着くと玄関を開ける。
「初めまして〜。あの私、土方さんの親戚の」
「あらあら、貴方が? 土方さんに似て美人さんなのねぇ〜」
あの人に似ているなんて……。
少なからずショックを受けた私。
まぁ、副長が美丈夫なのは認めるが、私はその部類には入らないだろう。
そんな事……言われたことも……。
いや、あったっけ?
ないないない。そんなこと絶対にない。
それに私が美人〜? きっとお世辞を言ってるだけだ。
「ええと、お名前は何と仰るのかしら?」
「はいっ! えっと、小雪です」
示し合わせていた偽名を告げる。
一文字しか変わらないから覚えやすい。
『さ』か『こ』だけ。
「小雪さん。そうなのね、よろしくお願いします」
ガタガタと後ろから音が聞こえ、奥さんが「あら」と声を出しながら首を傾げる。
芹沢さんが––––––居た。
背中に冷や汗が伝う。