妖しの姫と天才剣士
そのまま気づかれないように戻ろうとすると、木に凭れ掛かった沖田さんの姿があった。
その表情は影になってよく見えない。
どうしてだろう? 今、無性に沖田さんの顔が見たいと思う。
「どう……なの? その……様子は」
「気にする程は……」
目は合わせて貰えない。その事に少し傷ついている事に気が付いてびっくりした。
「なら良いけどさ、僕が巻き込んだような気がして……」
それを言う為だけにこんな夜遅くまで……?
「そんな事は気にしないでください。沖田さん」
「総司でいい」
「え……?」
「総司って呼んで。茅野ちゃんにはそう呼んでほしいな」
その言葉は妙に力強くて、何も言えなかった。
それに、少しだけ沖田さんとの距離が縮まるような気がして嬉しい。
「分かりました。総司、ですね」
私も認められた気がしてじんわりと温かいものが広がっていく。
「引き留めちゃってゴメン。…………じゃ、戻らなきゃでしょ? 茅野ちゃんも」
言いたい事だけ言って、沖……総司は行ってしまった。
何だったんだろ?