妖しの姫と天才剣士
結局、その日は一睡も出来なかった。
けれど、私は副長にすべての事を話す決意をした。
そうしないと、何も始まらない気がした。
それに、総司たちの築いてきたものをこんな人達に崩されたくないから。
私はその意思を固め、奥様の所にまで出向いた。
「すいません、奥様。今日は少し休みを貰えないでしょうか?」
部屋に入れてもらった私はそう言って頭をさげる。
「あら? 大丈夫? 病気かしら?」
「いえ! 土方さんにお礼をちゃんと言ってなかったもので。
この職場を紹介して頂いたのは土方さんですから!」
「気をつけなさいよ?」
「分かってます!」
私はすぐに戻ると袴へと着替えて、塀を乗り越え、土方さんの元へと向かう。
「土方さん。いらっしゃいますか?」
「なんだ、茅野」
「報告したい事があります」
土方さんへの報告は夜と決まっている。
そっちの方がバレにくいから。
人通りも少ないし、芹沢さんたちは部屋で宴会だ。
屯所に近づかないことは知っていた。
だから、こんな時間に来ただけ緊急なんだと伝わると信じている。
そこまで頭は悪くない……筈だから。
「……入れ」
初めて、障子の内側に入る許可をもらい、私は土方さんの部屋へと入る。