妖しの姫と天才剣士
新選組で
沙雪の身柄
薄っすらと開けた瞳。
それに映るのは見慣れない景色だった。
暗い空じゃなくて、ちゃんと建物の中で寝泊りしてる?
障子の向こうはすでに明るくなっていた。
ここは……どこ?
私は確か、妖狐に襲われている時に––––。
「ふぁあっ。目を覚ましたみたいだね。君」
顔を覗かせたのは今さっきの青年だ。
私は反射的に枕元に置いてあった刀に手をかけようとして気づく。
刀がない。それがこんなに心細いなんて。
彼は昨夜着ていた羽織りは着ていなかった。
「君は誰? ここらでは見ない顔だね。どこから来たの? 」
「……答える必要がある?」
「そうだね。一応君は囚われの身。
自分の身の行方を案じるのなら、素直に答えておくべきだと思うよ」
私の身の行方なんてどうでもいい。
どうせ、あの場所に居続けててものたれ死んでいただけさ。
それでも、私は自分の事を話した。
「……私は茅野沙雪。……どこから来たかなんてもう……覚えてないよ」
故郷の事なんて覚えてない。
私が覚えてる中で一番古いのはこの刀を持って、一人山奥にいた事だから。
今ではその場所すら覚えてないけれど。
彼は私の言葉を信用なんてしてないけど、追求はない。
「もう、立てる? なら、近藤さんのとこ行くよ」
「近藤さん?」
誰? その人は。
「話はあと」
彼は私の腕を引っ張って、立ち上がらせるとスタスタと歩き始めた。
歩幅の違いなんて関係ないみたい……だな。
普通に歩いていく彼に私はついて行くので精一杯だ。
視界の焦点が定まらないまま、引っ張られ歩いた。