妖しの姫と天才剣士
「皆、平気な訳ないんだ」
そう言って、彼は私の体を抱きしめる。
「ッ…………」
「仮にも同じ飯を食った事もある仲間だよ。
そんな相手を手に掛ける事が平気な訳ない!
皆、そこまで鬼にはなれない。例え土方さんでもっ」
こんなに声を荒げる総司は珍しい。
それに面食らってしまった私はぽつりと零す。
「それでも、私は弱かった」
「…………」
「体がじゃなくて、心がね」
総司にこんな話ししてどんな意味があるんだろう?
余計な事、聴かせないほうがいいのにな。
「何も理解しないまま殺し屋してて、躊躇いもなく殺して来た。
だから、大丈夫だろうって、そう思っちゃった」
私は自分が恐ろしい。
人を殺める事に慣れていると思っていた自分が。
「どうすればいいの?私は、何をすれば救われるの?」
どうすればいいの? それが私には分からなかった。
「私は、自分自身が憎い」
人を殺すことが平気だと思っていた自分が、
「殺してしまいたいほどに」
いっそ、死ねたらどれだけ楽なんだろう。
お梅さんの刃をこの胸に受け、私が奪った命に地獄に引きずりこまされる。
「ねぇ、私は生きてていいの?」
情緒不安定だ。
普段の私なら絶対にこんなこと言わない。
それでも、歪んだ視界は変わらない。
涙を零す私へと総司の顔が迫る。
「お願いだから……黙って」
触れた温かさは雨で冷えた私の口からじんわり広がっていく。
それが現実だと理解させられ……
その熱で私がどれだけ冷え切っていたのかが分かる。
一度離された唇。
でも、名残惜しげにもう一度だけ重ねられた唇。
それは私の頭を別の意味で混乱させるのには十分過ぎるほどで。
雨はまだ止まない。