妖しの姫と天才剣士
「大丈夫か? 茅野」
斎藤さんに顔を近づけられて意識が戻った。
こんな所で崩れてる訳いかないよね。
私が倒れてる理由も、私と彼の事も斎藤さんは知らないんだから。
「はい、大丈夫です。すいません」
一人で立ち上がると頭を下げて自分の部屋に戻った。
早打ちする心臓が止まらない。
冷や汗が頬を伝った。
障子に掛けたままの手の震えが止まってくれない。
少しずつ増やしているのは私の心を煽る為。
ああ乗せられているな〜、と歯ぎしりする。
私は相当動揺していた。
その感情を抑えるために壁に寄り掛かる。
はぁっと息を吐くと胸元に手を置く。
震えが収まるようにと両手を重ねた。
「どう? 仲間を少しずつ傷つけられる感覚は?」
この声は……!
はっと窓の方を見ると。
「お前……」
「ちょっと忍び込ませてもらったよ。紅雪」
窓の横。気配もなく佇んでいる人影。
そこには、白髪の彼の姿があった。