王子様はハチミツ色の嘘をつく
私は芹沢美都。庶務課でお茶を汲みつづけて六年目、彼氏いない歴=年齢の冴えないOL。
……こんな女を秘書に、かつ妻にしようとする男性なんて、地球上にいるはずない。
もしやこの王子、宇宙人か……!
どうりで目の中に星を飼ってるわけだ……!
訳のわからない理屈で無理矢理自分を納得させようと四苦八苦していると、いつの間にやらファイルの説明は終わったようで、テーブルの隅にそれらを寄せた社長が、すらりと長い脚を組んで私を見据える。
「まだ、質問がありそうですね」
「……そりゃそうですよ! どうして、私なんかを……」
これがトパーズを壊した罰なら、何かがズレている。
だって、私なんかを秘書兼妻なんかにしたら、私よりよっぽど社長の方が困ることになるでしょ?
「……やはり、覚えていないのですね。分かっていたこととはいえ、少しショックです」
「覚えていない……?」
「ええ。僕たちは昔、一度会ったことがあるんですよ?」
……昔、会ったことがある?
私の記憶の中に、こんなイケメンは一人もいないんですけど……
「きみに、蜂谷華乃(はちやかの)……というご友人はいませんか?」
「蜂谷、華乃……ああっ!」
随分と長い間彼女とは会っていないから、今でも友人と言っていいのかわからないけれど、確かに私と華乃は、その昔仲が良かった。
彼女の父親の仕事の関係で、彼女とその家族が海外に移り住んでしまうまでの、短い間だったけど。
「彼女の父と僕の父は古くからの付き合いで、僕も一度だけ招かれたことがあるんです。彼女の誕生パーティーに」