王子様はハチミツ色の嘘をつく
華乃の言葉に、目をぱちくりさせる私。
あの日、というのは、誕生パーティーの日のこと?
だとしたら、その人はもしかして、私の初恋の――。
「まあ、相当昔のことで美都もかなり記憶が薄れてるみたいだから、まずは話さなきゃわからないよね。どこから聞きたい?」
「……できれば、最初から全部」
「あはは、どんだけ忘れっぽいのよ。ま、いいや。久しぶりにゆっくり会えたんだもん、一から話してあげる。あの日――――」
華乃が話し始めるのと同時に、前菜の皿が運ばれてきてコースが始まった。
けれど、私はフォークを持ったままで、食事より会話に集中してしまう。
華乃の口から語られる昔話を聞くうちに、断片的だった記憶がひとつにつながっていく。
そして、足りないピースはやっとすべて埋まった。
社長は、私の王子様ではない――。
その意味も、今になってようやく、ハッキリと呑みこむことができた。
* * *
華乃とは小学校で出会って、仲良くなった。
同じ幼稚園から持ち上がった子が多い中、私は保育園から、華乃は家で幼児教育を受けていたらしく、あまり他の子に馴染めない同士、自然と一緒に遊ぶようになったのだ。
「今度、誕生パーティーをやるから来て? 華乃の王子様も来るから」
「おうじさま?」
「そう! 大きくなったら結婚するの」
「へえ。いいなぁ、華乃はお姫様になるんだね」
私の言葉に、うれしそうに微笑んでいた華乃。
王子とか結婚とか、小学一年生の私には全くピンと来なくて、ただ漠然と『羨ましいなぁ』くらいに思っていた気がする。