王子様はハチミツ色の嘘をつく
華乃の王子様はどんな人だろう。カッコいいのかな。
おとぎ話に出てくるような優しい白馬の王子的な想像をしながら、私は誕生パーティーの日を心待ちにしていた。
当日、プレゼントを持って訪れた華乃の家は、私の家の五倍は大きかった。
広い庭にはパーティーの準備がしてあり、お客さんは数十人はいたと思う。
そして大人も子供もフォーマルな服装できていて、おめかししたつもりでも普段着には変わりない自分の服装が、少し恥ずかしかった。
でも、そんなときに、華乃が言ってくれたんだ。
「私の服を貸してあげるから、一緒にお姫様の格好をしよう?」
そして貸してもらったワンピースは、可愛らしいフリルがいっぱいついたもので、華乃と一緒に手を繋いで会場を歩いていると、たくさんの大人たちに“可愛い可愛い”と褒められた。
今思えば、あの言葉は華乃に掛けられたもので、私はそのオマケ程度だったんだろうなと察しがつくけれど、子供時代はそんなことには気づかず、素直に嬉しかった。
でも、ひとりだけ……私たちを可愛いと言ってくれない男の子がいたんだ。
その子は庭の隅でつまらなそうにアリの巣をほじくっていたけれど、そこに近付く私たちの姿に気づくと顔を上げた。
色が白くて、綺麗な顔。少し年上みたいだけど、華乃の親戚なのかな?
そんなことを考えていると、男の子はいつの間にか私の前に立ちはだかっていた。
無愛想で何を考えているかわからない表情。だけど、じっと私を見つめている。
そんな彼にちょっとだけ怯える素振りを見せた私を、華乃がフォローしようとしてくれて。
「美都、紹介するね。このひとが、わたしの――」
「……ミツ? 変な名前」
けれど、華乃の紹介にかぶせるようにして、彼がぼそっと呟いた。
私と華乃がぽかんとしていると、無愛想なままで彼が続ける。