王子様はハチミツ色の嘘をつく
「二人並んだら“ハチミツ”だな。超だせぇ。特にミツの方、マジクソだせぇ」
見ず知らずの年上の男の子に、“マジクソだせぇ”と言われた幼い私は、かなりショックだったし傷ついたしで、うるうると瞳を潤ませた。
そんな私に気付いた華乃が、私をかばうようにして前に一歩出ると、彼に対抗してくれた。
「ちょっと! 私の友達を泣かせないでよ! 将来私と結婚したら、あなたのお友達にもなるのよ?」
華乃がませた言葉づかいでそんな風に言うと、彼は鼻で笑った。
「……やだよ。こんなブスで変な名前のヤツと友達になるなんて」
ブ、ブス…!?
幼い私の心に、そのときぐさっとナイフが刺さった。
アラサーの今なら、“私、ブスですから”なんて自虐的に笑って言えるだろうけど、小学生女子にとって、“ブス”という言葉はかなり痛すぎる烙印。
私がとうとう涙をこぼして泣きはじめると、男の子はさらなる追い打ちをかけてきた。
「これくらいで泣くなんて、ブスで変な名前の上に弱虫なんだな」
これには私もさすがに悔しくて、華乃の背中から顔を出すとひっくひっくと泣きながらこう反論する。
「あなた、こそ……っ! そんなこと言うなんて、性格、わるい……っ!」
「なんだと?」
言い返されて頭に来たのか、男の子は私の前にいた華乃の身体を無理矢理押し退けると、私の左頬を思いっきりつねってきた。