王子様はハチミツ色の嘘をつく
「痛いっ! やめてよぉ!……ふぇぇん」
「お前が泣くのが悪い」
この辺りでさすがに周囲の大人たちが騒ぎに気付いて、私たちを引きはがしてくれたらしい。
それでも泣きやまない私を、華乃や華乃のご両親が色々と励ましてくれたけれど、私は自分がなぜ泣いているのかもわからなくなっていて、泣きやむタイミングを見失っていた。
いつまでもめそめそする私の周囲にはいつの間にか誰もいなくなって、余計に寂しくて、会場をとぼとぼと歩いていた。
そんな時――。
「……もう泣かないで? ほら、美味しいお菓子をあげる」
足元の緑の芝生ばかり見つめていた私が久しぶりに顔を上げると、そこにはにっこり微笑む優しそうな男の子の姿が。
年齢は、さっきの意地悪な男の子と同じくらいかな。
でも、纏っているオーラや雰囲気が真逆で、優しそうな彼の姿に私は警戒心を抱くことはなく、差し出されたレモンケーキを受け取って口にした。
「……おいしい」
それは、今まで食べたどのお菓子よりも美味しいような気がして、思わずぱくぱくと我を忘れて食べ進めると、目の前の男の子がクスッと笑った。
その表情は、まるで王子様のように素敵で。
……カッコイイ。
幼いながらに彼に見惚れて、甘酸っぱいような気持になった私は、その後のパーティーの最中ずっと彼のそばを離れなかった。
その間、意地悪な男の子のことは極力考えないようにして、いつしか本当に忘れていた。
そして私はパーティーの後も、王子様との初恋だけを、大切な思い出として胸にしまったんだ――。